Vol. 7

サントリー登美の丘ワイナリー訪問記

2010年8月13日

良いワインは良いぶどうから

甲府盆地を広く見下ろす小高い丘にその理想郷はあった。サントリー「登美の丘ワイナリー」。1909年開園の伝統あるワイナリーの敷地総面積は約150ヘクタールに及ぶ。静寂の中に降り注ぐ光は丘全体を包み、雲下に広がる甲府盆地を見下ろすと、まるで天空に立ったような錯覚におそわれる。
「良いワインはよいぶどうから」がモットー。ここでは土づくりから始まるぶどうの栽培、ワインの醸造、熟成まで一貫したワイン作りの全てを自らの手で行っている。

国産ワインの理想郷

ここでは、欧州系のブドウ品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワール、シャルドネなどフランスで栽培されているのと同じワイン専用品種を栽培している。
一般的に欧州系ワイン専用葡萄は、雨が少なく、日当たりのよい、一日の温度差が激しい気候を好む。本来、日本の平均的な湿潤な気候は栽培に適さない。 が、ここはぶどう王国山梨県の中でも特に恵まれたテロワール(気候・地形・地質・土壌などの複合的地域性)にある。
年間の降水量は平均の半分。県内でも最も雨の少ない地域だ。畑が位置する斜面は南に向かって広がり、日当たりにも恵まれている。扇状地を成す土壌は、粘土とシルトと砂とが適度に混ざり水はけもよい。また、標高が高く冷涼で収穫期の昼夜の気温差が大きい。こうしたことが、熟度の高いぶどうを産み出す一因となっている。この丘は日本の中にあって希少な、まさに、ワインの理想郷なのだ。

さらなる理想郷へ

「恵まれたテロワールとぶどうの力を最大限引き出すのは“ひと”です。」登美の丘でぶどう栽培を長く担当し、現在はワイナリーの所長として全体を総括する大川栄一さんは言う。“ひと”という言葉を発するとき、優しい柔和な表情の奥に力強い眼光が見える。
登美の丘ワイナリーのぶどう栽培は、人と自然の共同作業。自然の力と、ぶどうの持つ力をうまく掛け合わせ、最大限に活かすために、“ひと”が手を尽くす。
「“ひと”には観察力が必要です。」大川さんの言葉は続く。
ぶどうの木は日々様子が変わるから、ぶどう作りを熟知した栽培の専門家は毎日畑に足を運び、天候に目を向け、ぶどうを見守り、世話をする。栽培暦はもちろんあるが、日数のカレンダーに縛られない。このとき自然観察力がものを言う。桜の花が咲いたらこの作業を、タンポポが咲いたらあの作業を、蛍が出たらこの防除をという具合だ。

良いぶどうは「ひと」が育てる

登美の丘では自家ぶどう園ならではの環境保全型循環農業を推進している。栽培管理に必須な農薬もその適正使用に務めており、残留値管理を徹底している。
よいぶどうの最終形は「完熟ぶどう」。「完熟」であることは登美の丘のこだわりの一つでもある。ただ、「健全」かつ「完熟」を待つことは、様々な病害虫との戦いの期間延長も意味する。そこにジレンマがあった。
大川さんは微生物農薬「エコショット」の使用基準作成に係る試験に携わってきた。現在、エコショットは収穫前日まで使える唯一の防除資材。「完熟ぶどう」の栽培に必須な資材として、環境に配慮した安心・安全な資材として、「エコショット」に寄せる期待は大きい。
登美の丘ワイナリーは、こうしたぶどう栽培から醸造まで環境に配慮した取り組みから、環境マネジメントシステムの国際規格ISO14001の認証を2001年に取得している。
「50年出なかったホタルが、3年前から飛ぶようになったんですよ」
そう話す大川さんの表情は再び優しかった。
ワインの理想郷は、その利を活かす“ひと”の手によって、環境に配慮した新たな理想郷へと進化している。

エコショットとは

自然界に存在する細菌バチルス ズブチリスD747菌の芽胞を有効成分とする園芸・果樹用の微生物殺菌剤です。発病前に散布することにより、植物体上で病原菌より先に定着し、病原菌の活動を抑制することにより防除効果を発揮します。

エコショットの特長

  • 果菜類やぶどうかんきつ灰色かび病トマト・ミニトマト葉かび病なしの黒星病、にらの白斑葉枯病に有効です。
  • ぶどうの灰色かび病に対して収穫前日まで使用が可能です。
  • 拮抗細菌を有効成分とする微生物農薬です。
  • 発病前に散布することにより、植物体上で病原菌より先に定着し、病原菌の活動を抑制することにより防除効果を発揮します。
  • 既存の微生物農薬と比べ果菜類に対する汚れが極めて少なく、取り扱いが容易な顆粒水和剤です。
  • ミツバチ、マルハナバチなどの有用昆虫に影響が少ない薬剤です。
  • 生菌の微生物農薬ですので、特別栽培農産物に於いて使用成分回数にカウントされません。(実際の使用、農産物表示にあたっては、地方公共団体等の認証機関にお問い合わせください。)