トップメッセージ

はじめに

クミアイ化学グループの中期経営計画「Create the Future~新たな可能性へのチャレンジ~」の2年目となる2022年度は、私が社長として迎えた最初の年でした。「サステナビリティ経営の推進」、「プライム市場への移行に合わせた更なるガバナンスの強化」、「夢の実現へ、全てのステークホルダーの幸せを追求」という3つの方針を掲げて、企業価値向上に向けたさまざまな施策にも取り組んできました。社長就任後は1年をかけて、本社全部門、国内、米国、ヨーロッパの全事業所を回って役職員との交流会を実施し、新たな方針を浸透させるとともに役職員からのダイレクトな意見に耳を傾け、自由な発言ができる雰囲気を醸成してきました。

ロシアによるウクライナ侵攻などを含め当社グループを取り巻く環境は多くのリスクに曝されておりますが、風通しの良い社内環境を維持し役職員全員が力を合わせて、事業環境の変化という大きな波に柔軟に対処していきます。

今回より新たに、財務情報や非財務情報、そして経営戦略を包括的にステークホルダーの皆様にお伝えする統合報告書を発行することになりました。この統合報告書を通じて、変化を続ける当社グループのポテンシャルや目指す方向性をご理解いただければと考えています。

中期経営計画
~100年企業としての「あるべき姿」の実現に向けて~

2021年10月期を初年度とする3か年の現中期経営計画「Create the Future~新たな可能性へのチャレンジ~」においては、国内外の経済動向に不透明感が増す中、当社グループが将来にわたって持続的に発展し100年企業を目指すために、20~30年後の市場環境を予測の上「あるべき姿」を視野に入れつつ、事業領域拡大のための種まきを行う時期と位置付けています。大きく事業環境が変化する中、農薬というくくりのみで物事を見ていたのでは持続的な成長には限界があるため、当社グループが将来にわたり、どういう価値を社会に提供していけるのかを真剣に考え、事業領域を拡大することで将来の事業環境の劇的な変化、パラダイムシフトに備えることを意図したものです。これを実現するために、4つの重要方針 ①研究領域、事業領域の拡大 ②販売ルートの多様性確保 ③コスト競争力の確保 ④ESGを重視した企業活動、を選定し取り組みを行っています。

2021年度に続き、2022年度も連結売上高・営業利益ともに過去最高を更新し、中期経営計画の目標を上回り、中計2年目にして既に最終年度の数値目標を達成することができました。また、ROEも中期経営計画の目標7.3%以上を大幅に上回る14.9%を確保しました。

実績が中期経営計画を上回って推移している要因としては、穀物価格の高騰、作付面積の増加に伴う主力の畑作用除草剤アクシーブ®の需要増に加え、新規に販売を開始した水稲用除草剤エフィーダ®、水稲用殺菌剤ディザルタ®などの自社開発剤の成長上振れが挙げられます。原油価格等の高騰に伴う原材料費や製造コストの上昇といったマイナス要因もありましたが、対ドルレートでの円安進行というプラス要因もあり好調な業績を維持しております。

化成品事業では、コロナ禍の影響が長期化したことで中期経営計画に対しての進捗は遅れましたが、現在は回復しております。また、プラス要因として塩素化事業、精密化学品事業の需要増があります。

2023年度も、農薬及び農業関連事業の持続的成長を中心にさらなる増収増益を目指すとともに、中期経営計画で設定した重要方針・重点施策を確実に実行し、サステナビリティ経営の基盤強化を図ることに注力してまいります。

重要方針に基づく主な重点施策と取り組み内容

農薬及び農業関連事業においては、既存事業の拡大に加えて「研究領域、事業領域の拡大」や「販売ルートの多様性確保」といった新たな分野や地域における成長戦略の推進を進めています。新たな領域への参入に向けたスピード向上の手段としてM&Aの機会も常に追求しています。現中期経営計画期間中にも、微生物を利用した栽培技術やITによる環境制御技術を駆使した新たな農業を展開するアグリ・コア社の株式取得や、成長性の高いアジア・アフリカ向けに農薬販売ルートを有するシンガポールのAAI社の株式取得を行っています。

化成品事業については、事業の最大化を図るべく、化学研究所のプロセス化学研究センターに新素材開発研究室を新設いたしました。新素材開発研究室には、クミアイ化学だけでなくグループ会社の研究員も配置しております。これまでは各社で行っていた研究開発を一つの研究室で行うことにより、グループを横断する研究体制の構築を目指しており、各社が持つ知見やノウハウ、技術を活かした共創的な取り組みを進めます。

グループ間での連携や外部機関との協働を深化させることで、新規分野の開拓および事業の川下化を図り、化成品事業の最大化に向け取り組んでまいります。

農薬及び農業関連事業
既存事業の拡大 アクシーブ®、エフィーダ®、ディザルタ®の成長
研究領域・事業領域の拡大 フルペンチオフェノックス、エコアーク®、バイオスティミュラント、メタン発生抑制技術の開発、アグリ・コア社の株式取得
販売ルートの多様性確保 AAI社を活用した新規市場の開拓
Asiatic Agricultural Industries)
化成品事業
研究領域・事業領域の拡大 新素材開発研究室の設置

高い成長性を持続する主力剤アクシーブ®

2022年度は世界的な穀物市況の高まりに伴い主力剤アクシーブ®の需要は非常に高い水準で推移いたしました。当初計画では392億円の売上を見込んでいましたが、結果としては大幅に上振れて544億円となりました。

主要国での出荷状況ですが、米国をはじめ全ての国で計画を上振れました。アクシーブ®の有効性が浸透したことで農業生産現場では除草剤抵抗性雑草の防除にはなくてはならない剤として位置付けられていることに加え、穀物価格の高騰により農家の収入、購買力が向上したことで、プレミアム価格帯の剤であるアクシーブ®の需要増加に繋がっていると考えております。さらに、農薬全体の需要が増加している状況において、さまざまな要因により競合剤の供給不足が問題となっていたのに対し、当社がアクシーブ®を安定的に生産、供給できたことも好調の要因と考えております。2023年10月期は、引き続き良好な事業環境が継続すると見ており、前年比185億円増の729億円を見込んでいます。

現中期経営計画においては、想定以上のハイペースでアクシーブ®の成長が続いておりますが、ジェネリック品の市場参入や原材料費の高騰、販売国での流通在庫の動向等を注視するとともに、成長を維持するためのプロアクティブな対策を進めております。

研究開発型企業としての当社の強み

研究開発型企業として圧倒的なイノベーションで新農薬を創り続けるというのが当社のスタンスです。評価化合物から新農薬1剤を商品化できる確率は16万分の1ともいわれますが、当社は8千分の1という極めて高い確率で新農薬を開発してきました。継続的に効率的な新剤開発が実現できる要因としては、現場に密着し農家の要望を把握して将来の市場を予測した製品開発を行っていること、さまざまな分野の研究員がチームを組み総合科学を結集して開発を行っていること、また一人ひとりの研究員のテリトリーが非常に広く研究員レベルでの包括的な価値判断ができることが主因と考えています。

さらなる研究開発体制の強化を目的に、これまで創薬、製剤、工業化プロセスと三つに分かれていた化学系の研究センターを一つに統合した新化学研究所を静岡県内に建設中で、2023年秋にも稼働の予定です。異なる分野の研究者の声が一つの空間の中で共鳴し、情報共有できる環境となります。新化学研究所の建物名称は社内公募により、当社の創業の地である「清水」を冠し、さまざまなイノベーションにより農薬、化成品の枠を超えた新技術・新規事業を創出する場所という意味からShimizu Innovation Park(略称「ShIP」)と名付けました。清水から大海原へ船出する船をイメージしており、夢を持って新規化合物の開発に従事できる世界最新鋭の新研究所で革新的な研究開発に拍車をかけていきます。

農水省が策定した「みどりの食料システム戦略」に対する当社の取り組み

2021年5月に農水省が策定した「みどりの食料システム戦略」では、化学農薬に関して、2050年までに使用量をリスク換算で50%低減などといった農薬メーカーにとっては一見ネガティブな目標が示されています。一方、「みどりの食料システム戦略」ではイノベーションにより農業の生産性向上と持続可能な農業の両立を図るとも明記されています。当社は中期経営計画の中で、100年企業としてのあるべき姿を、「食の安定供給を支える農業に貢献し、革新的な技術と独自の事業領域を確立した最先端の化学メーカー」と設定しています。この「あるべき姿」を実現するために策定した事業戦略には、環境保護やエネルギー問題等への対応を含む「みどりの食料システム戦略」に示された姿が既に盛り込まれており、方向性は大きく一致するものと考えております。

今後もこれまで同様、より安全で効果が高く環境負荷が低い化学農薬の開発を行うとともに、IPM(総合的病虫害・雑草管理)やスマート農業、微生物農薬等の技術開発などを進めることが、研究開発型企業の当社にとってのビジネスチャンスであると捉えております。「みどりの食料システム戦略」が掲げる「食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立」に資する革新的な技術の確立に向け、自信を持って取り組んでまいります。

サステナビリティ経営への取り組み

2022年度期首には、サステナビリティ基本方針を制定するとともに、サステナビリティ推進委員会を設置いたしました。さらに、2022年5月にはレスポンシブル・ケア推進課を新設し、サステナビリティ推進部として組織強化するなど、2022年度は一年をかけ、サステナビリティ経営の基盤強化を図りました。

また、当社グループの事業戦略や当社グループを取り巻く社会変化などの事業環境を踏まえ、従来のマテリアリティの全面的な見直しを行いました。新たなマテリアリティの特定により、ESG の要素を経営戦略に反映させ、事業の成長を通じての企業の経済的価値の向上とともに、非財務指標の向上を通じて企業の社会的価値をも向上させていくことを目指しています。各マテリアリティにはKPI を設定し、中期経営計画等の各部門の事業計画と連動させることにより、達成のための取り組みを確実に実行してまいります。

今後は、クミアイ化学グループ全体でサステナビリティ経営への取り組みを加速させ、持続可能な社会の実現への貢献を目指すとともに、企業価値の向上を図ります。

当社のコア事業である農薬及び農業関連事業に深く関わる、気候変動・環境負荷の低減に対する取り組みとして、エネルギーの効率化や再生エネルギーの有効活用等により、当社グループの温室効果ガス排出量を2030年度までに2019年度比30%削減とする目標を掲げております。気候変動の緩和と適応に向け、これらの取り組みを推進するとともに、2022年7月にはCDP(世界的な環境情報開示システムを運営する国際環境非営利団体)への回答を実施し、2022年11月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明し、TCFDの提言を踏まえた情報開示にも取り組んでおります。具体的取り組みとして、自社工場等の設備投資によるエネルギーの効率化や太陽光発電などの再生可能エネルギーの有効活用などを通じてGHG(温室効果ガス)排出量削減を行うとともに、当社が北海道福島町に保有する640ヘクタールの山林の管理を通じてCO2を吸収することでGHG抑制に貢献しています。また、農地から発生するメタンガスの抑制技術の実用化に向けた実証実験も行っています。

世界の人口が増加を続ける一方で農地の拡大には限界がある中で、世界の食料を安定的に供給していくためには、当社が開発・製造・販売する農薬は不可欠な生産資材であり、安定した事業を継続して社会全体を支えていくことが当社の重要な使命だと考えています。農薬のエンドユーザーである農家には、農薬の有用性とリスクを理解し、農薬を適正使用していただいていますが、一方で農作物の一般消費者は農薬の有用性を感じる機会は少なく、科学的根拠に基づかないネガティブな情報により農薬に対するマイナスイメージを持つ方も少なくありません。当社はあらゆるステークホルダーに対して、農薬の必要性・安全性を正しく理解していただくことも極めて重要だと考えています。当社で作成した「お米をまもるはなし」、「リンゴとミカンをまもるはなし」という漫画を使った小冊子を無料配布し、主に小学5年生を対象とした小学校での出前授業も行っています。これらを通じて、農業の大切さや大変さとともに、農薬の必要性や安全性についての啓蒙活動も積極的に進めていきます。

おわりに

2023年度は中期経営計画の最終年度であり、将来的な「あるべき姿」の実現に向けたさまざまな取り組みにも一層注力していきます。創業の地である静岡市清水区に最先端の設備を備えた新化学研究所(ShIP)が完成し、最新鋭の研究施設に生まれ変わります。

また、2022年10月に当社グループに加わった非常にユニークな微生物とIT を駆使した独自技術を持つアグリ・コア社も含め、従来から継続している農薬、化成品の研究開発に加え、新たなビジネスの種となるイノベーションを創出し、100年企業を目指して進んでいきます。

2022年4月に当社は東証プライム市場へと移行し、事業規模の拡大を続ける中で社会的な責任も大きいことを認識しています。企業の価値とは、いかにして社会的課題の解決に貢献できるかにあると考えており、経済的価値と社会的価値の両立を図るサステナビリティ経営の深化に向けた取り組みが必要です。

当社グループでは、各自が夢を持ちそれに向かって努力し、成果を上げることで達成感、充実感を味わい、幸せになるという流れを創ることを目指しており、これを「夢」と「幸せの三角形」と呼んでいます。さらに、従業員、株主様、取引先様を含む全てのステークホルダーの幸せを追求し、業績や目標達成だけでなく、社会貢献や環境対応なども含めた成果を目指し、地球規模の幸せにまで拡大していくことこそがサステナビリティ経営だと考えております。

これまで継続している増収、増益を続けて「株主還元の強化」を図るとともに、地球に優しい「サステナビリティ経営の強化」を推進し、100年企業に向けて、当社グループのあるべき姿を実現してまいります。

今期策定する次期中期経営計画の中では、株主還元や資本配分等についても検討してまいります。

今後とも、より一層のご理解とご支援を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

代表取締役社長 

高木誠