危機意識を持ち、変化を恐れず、結果を出すことで新たな成長戦略を描く
代表取締役社長
2025年10月に、代表取締役社長就任1年目となる2025年度の期末を迎えました。2025年度の業績は増収減益となり、期首に想定していた以上に、厳しい1年になったと実感しています。
私は2024年11月に社長に就任した際「強靱な企業体質への変革」「サステナビリティ経営の推進による企業価値の向上」「全てのステークホルダーの幸せの追求」の3つの方針を掲げました。これらは1年で達成できることではなく、また定量的なゴールがあるわけでもありません。目標というよりは、社長でいる限り追求していかなければならないという私自身の決意であり、また自分自身に課した宿題であると言ってもいいでしょう。
当社を取り巻く事業環境が、年々厳しくなることは明らかでした。特に当社にとって最も大きな事業環境の変化は、畑作用除草剤アクシーブ®のジェネリック品の市場参入です。2011年のアクシーブ®の発売以来、当社は大きく成長してきました。一方で将来的にはジェネリック品の参入が、価格の下落と収益の悪化、そして競争の激化を招くことは十分に予想されることでした。
そこで、収益力を高める事業構造にすること、経営の懸念材料を先送りしないこと、事業環境の変化に大きく左右されない企業体質にすることを、最優先方針として掲げました。事業環境が厳しくなる中で、それに耐えられる企業体質に改善するために、アクシーブ®に続く製品開発と、収益構造を高める施策を打ち出すことが必須だったのです。
一方、アクシーブ®に直接携わる社員は一部であったため、アクシーブ®が業績に与える影響力を、社員全員が共通認識として持っていませんでした。言い換えれば、危機意識が社内に十分浸透しておりませんでした。
そこで私は社長就任時に、前述した3つの方針に加えて「健全な危機意識を持つこと」「変化を恐れないこと」「結果にこだわること」の3つのお願いを、社員に向けて発信しました。これらの「お願い」は、3つの方針をまい進するために、社員の意識改革を促すためでもありました。
しかし、冒頭でも述べたように2025年10月期は増収となったものの、減益を余儀なくされました。これは、ジェネリック品参入による影響が、想定していたよりも早く訪れたことが要因にあると認識しています。
改めて、2025年10月期の業績を振り返ります。
連結売上高は前年対比で94億円増となる1,705億円となり、15期連続の増収を達成しました。
農薬及び農業関連事業の売上は、国内事業に限ると35億円増の424億円と好調に推移しています。除草剤エフィーダ®を含む水稲用除草剤や、殺菌剤ディザルタ®を含む水稲用箱処理剤が好調だったことと、カメムシ類の発生が拡大したことで殺虫剤の需要が増加したことが主な要因です。
海外事業の売上高は、40億円増の933億円となりました。そのうちアクシーブ®の売上高は、44億円増の754億円です。アルゼンチン市場がジェネリック品参入の影響から落ち込んだものの、米国向け出荷が流通在庫の消化が進んだことや、販売促進の支援強化により増加しました。またオーストラリアでは、特許侵害品に対する法対応が奏功して出荷増につながりました。
化成品事業の売上高は、251億円と前年から微増で着地しています。塩素化事業では、事業環境の悪化に伴いクロロキシレン系製品の出荷が減少しましたが、アミン類の出荷が堅調に推移したほか、生成AIサーバー向け電子材料分野の需要が好調に推移し、ビスマレイミド類の出荷も増加しました。
収益に関しては、営業利益が前年比8億円減の106億円、親会社株主に帰属する当期純利益は44億円と同92億円の大幅な減益となりました。
営業利益の減益は、前述したようにジェネリック品対策として、一部の国でアクシーブ®の価格対応を実施したことが影響しており、販売数量増による売上増分を相殺しました。また、期中平均為替レートベース(米ドル円)では2円程度の円高となり、為替による影響もありました。
親会社株主に帰属する当期純利益が大きく下振れしたのは、当社の子会社であるIharanikkei Chemical(Thailand) Co., Ltd(. INCT)において固定資産の減損損失37億円を、特別損失として計上したことによるものです。INCTは成長トレンドにあったアラミド繊維市場において、原料の現地製造によるコスト競争力の確保と、生産能力の拡大を目的に、2016年にタイで設立しました。しかし、中国・インドなどの化学メーカーが市場に参入してきたことで競争が激化し、事業運営における環境が厳しくなったことから、当初の事業計画との間に大きな隔たりが生じました。現在、新たな商材の製造や生産効率の向上によるコスト低減など、経営改善に取り組んでいるところです。
2026年度は変化を恐れず、危機感を持って取り組む
2026年10月期は、中期経営計画の最終年度になります。当初の目標として、売上高1,850億円、営業利益160億円、親会社株主に帰属する当期純利益150億円を掲げておりました。しかし、これまでも述べたように、アクシーブ®の事業環境の急激な変化から、中期経営計画達成のハードルが高くなったと言わざるを得ません。
今期は売上⾼1,620億円、営業利益72億円、親会社株主に帰属する当期純利益64億円を計画しておりますが、これを最低限クリアするラインと捉え、引き続き、全社一丸となって中期経営計画目標に向けて課題解決に取り組んでいきます。
この1年は、当社の将来的な成長のための助走期間であると捉えています。そのための製品開発や営業施策に関しては、これまで以上に変化を恐れず、危機感を持って取り組んでまいります。
アクシーブ®に関しては、販売体制を強化し、市場の獲得に注力してまいります。アクシーブ®とジェネリック品を合計したピロキサスルホン(アクシーブ®の有効成分名)市場は、アクシーブ®が生産現場において、除草剤抵抗性雑草を防除するために不可欠な薬剤となっていること、抵抗性雑草の発生面積が拡大していることに加え、ジェネリック品が参入することで市場価格が下がり、生産者が手に取りやすい価格帯となるため、確実に拡大していきます。これをチャンスと捉え、拡大していく市場の中で、オリジナル品であるアクシーブ®の販売数量を伸ばし、利益を拡大していくことが極めて重要だと考えております。
アクシーブ®の販売数量を伸ばし、原体(有効成分)の生産数量が増加することで、原価低減が可能となり、さらなる生産効率化を目的とした革新的な原体製造方法の確立も進めております。より安価な生産を実現化することで、アクシーブ®の収益性を改善していきます。
販売面では、これまでに確立したブランド力などのオリジナル品としての優位性を最大限に活用した販売促進活動を実施してまいります。また、ジェネリック品と競合可能な価格を設定することで、さらなる拡販に取り組むとともに、新たな販売提携先を追加することで、販売体制の強化につなげていきます。さらに、新規混合剤を順次開発し、高付加価値化も推進することで、ジェネリック品との差別化を図ってまいります。
アクシーブ®の物質特許は2022年までに全ての国で満了しましたが、製造法や中間体に関する特許などはまだ有効です。当社が権利を有する特許を侵害している可能性のある製品については、断固たる姿勢で臨むこととしており、2024年度以降、アクシーブ®の特許権侵害に対する救済を求めるために、複数社を相手取り、法的措置を実施しております。既に中国やオーストラリアでは、勝訴的和解などの成果を上げています。これらの一連の対応は、特許侵害品の市場参入に対するけん制として有効に機能すると認識しており、引き続き各国での権利保護、行使を強化していきます。
微生物農薬エコアーク®の発売とバイオスティミュラントの開発
アクシーブ®以外の製品の強化は喫緊の課題です。
エフィーダ®とディザルタ®のさらなる販売拡大に向けて開発を積極的に進めます。特にエフィーダ®は、米国においてValent社との共同開発をスタートさせています。本剤の海外展開を本格化することで、新たな中核事業へと成長させていきます。
また、より環境負荷が低く化学農薬を補完する農業資材として、微生物農薬やバイオスティミュラントの開発を進めています。2026年春には、微生物農薬エコアーク®の販売を始めました。エコアーク®は当社が岡山県および子会社のケイ・アイ化成㈱と共同で開発した非病原性Rhizobiumvitis ARK-1株を有効成分とする微生物殺菌剤で、有効な防除手段がなかったぶどう等の果樹類やばらに発生する根頭がんしゅ病に高い防除効果を示します。
さらに2026年春に、当社初となるバイオスティミュラントなつつよし®の販売を開始しました。
化成品事業を第2の柱に将来的には30%の構成比を目指す
化成品事業においても成長を加速させます。当社は、化成品事業を主力の農薬事業に次ぐ第2の柱に成長させるべく、新製品の開発に取り組んでおります。その開発過程において、当社の農薬中間体である硫化カルボニル(COS)が、半導体メモリ(3D NAND※)製造に用いるエッチングガスとして使用されていることに着目し、2019年に高純度COSガスの開発をスタートしました。2025年度には、半導体グレードの高純度COSガスの製品化に成功して販売を開始し、2026年度には本製品を着実に成長軌道に乗せていきます。
また、化成品事業の主力製品となりましたビスマレイミド(BMI)類は、主に生成AIなどに使用される半導体向け電子材料である積層板に使用されております。当社の子会社であるケイ・アイ化成㈱が主に製造販売しておりますが、生産体制を一層強化すべく建設を進めておりました新プラントが完成し、本格稼働を開始しました。拡大する需要を取り込むことで、さらに成長していくことを期待しております。
現在、化成品事業の売上高構成比は15%ほどですが、高純度COSガスやBMI類の拡販に加え、新規開発品を世に送り出すことで、将来的には30%近くにまで成長させていきたいと考えております。
- フラッシュメモリの一種。メモリセルを垂直方向に積層することで、大容量化を実現。
当社の成長エンジンとして、人財戦略の強化は最重要課題の一つです。当社のこれまでの成長は、製品の優位性と、社員一人ひとりの努力の賜物であることは間違いありません。
私自身が社会人として大切にしてきたことに「与えられたフィールドで全力を尽くす」ことがあります。頑張っていると誰かが見ているのです。与えられたフィールドで一生懸命に頑張れない人間は、他のフィールドでも頑張れないと思っています。
特に若手社員には「自分の希望通りの配属にならないこともあるかもしれないが、与えられたフィールドで腐らず頑張ってみなさい。その頑張りは誰かが必ず見ていて、評価してくれるから」というメッセージを伝えています。
クミアイ化学の社員の一人ひとりが、モチベーションを高めて仕事に取り組むために、2025年11月から、新人事制度を導入しました。従業員一人ひとりのチャレンジを後押しし、その努力や成果に対する適正な評価を通じて達成感を得られる環境を整えることで、従業員が会社やチームに対しての愛着や信頼を感じ、自発的に貢献しようとする意欲を高めていきたいと考えています。
新人事制度のポイントの一つは、等級制度の改革です。管理職層のキャリアパスを複線化することで、多様な人財が活躍できる環境を整えました。専門職としてキャリアアップできるエキスパートを管理職層に整備することで、研究開発型企業である当社のコアビジネスをけん引する専門人財の活躍を支える仕組みとしました。
また、地域限定社員制度を導入し、転勤の有無および範囲に応じてグローバル(G)、ブロック(B)、リージョナル(R)の三つのコース区分を設けました。これにより、 柔軟性の高い働き方を実現します。
さらに、チャレンジを促す人事処遇制度を設けました。これは、年齢や勤続年数は問わずに、従業員のチャレンジが認められ、高評価を得た場合は、早期に上位等級まで昇格できる仕組みです。
新しい制度を導入するに当たって、社内で何度も説明会、評価者研修を実施し、時間と労力をかけてスムーズな移行に努めました。抜本的に制度を変えたので、社内でインパクトがあったと思います。
私は、現状維持=衰退だと考えています。これからのクミアイ化学が持続的に成長していくためには、恐れずに変化し続けていかなければなりません。この人事制度がきちんと定着するまで年数はかかるかもしれませんが、社員が健全な危機意識を持つことにつながるという意味でも、新人事制度の導入は大きな変化の一つになったと思います。
戦略的自然再生を実践するビオトープ「クミカ レフュジア菊川」
農薬メーカーとして、サステナビリティ経営への取り組みも大切な事業方針の一つです。当社グループは2030年度までに、2019年度比CO₂排出量の30%削減を目標としています。2025年度は29%削減を達成しました。再生可能エネルギー等由来のCO₂フリー電力への切り替えや、重油を温室効果ガス排出量の少ない燃料に切り替えるなど、継続して目標達成に向けた取り組みを行っています。創業100年を迎える2048年には、カーボンニュートラルの達成を目指しています。
また、生物多様性への取り組みも積極的に実施しています。2025年3月には、静岡県の生物科学研究所隣接地に、ビオトープ「クミカ レフュジア菊川」が完成しました。
本ビオトープでは、ホタルやイシガメといった、かつてその地域に生息していた動植物(在来種)を導入し、昔の景観を再現しようとしています。ここでは、当社がこれまでの事業活動を通じて培った知見を活かし、戦略的自然再生(Strategic Nature Restoration) を実践していきます。
環境負荷の低減について、当社は設立当初から現在まで、「より効果が高く、安全で環境負荷の低い」農薬の研究開発を追求してきました。たとえば、かつては1ヘクタールの畑に数キログラム単位の有効成分を散布しなければ雑草防除ができませんでしたが、いまは数十グラム単位までの低減を実現しています。また、農薬の有効成分の安定化や均一に散布するための製剤技術も進歩しており、かつて国内では水稲用除草剤の粒剤を1ヘクタール当たり30キログラム散布しておりましたが、当社が開発・普及した豆つぶ®剤は12分の1の散布量の2.5キログラムで同等の効果を示すことができています。
製品開発で述べたように、微生物農薬やバイオスティミュラントの開発も、サステナビリティ経営の取り組みの一つとして捉えることができると思います。
スーパーに行けばいつでも安全・安心で新鮮な食料が手に入る、ということは今の日本では当たり前のことかもしれませんが、農薬を使わなければ実現することはできません。当社では、農業の重要性とともに農薬の必要性をご理解いただき、より多くの方に当社を応援していただけるよう、広報活動を推進しています。具体的には、農業学習が始まる小学5年生を対象に、漫画で農薬の役割を解説する冊子『まもるはなし』シリーズの配布や、その必要性を伝える出前授業を展開しています。また2024年度には高校生を対象にした食育プログラムを開始しました。未来を担う若い世代に積極的にアプローチすることで、正しい農薬の理解を広めていきたいと考えています。
当社は農業に立脚した農薬ビジネスを展開しており、農薬は世界の食料生産を支える不可欠な存在であると考えております。例えば、当社で開発した主力製品であるアクシーブ®は、除草剤に抵抗性を持った雑草を防除できる製品で、世界の作物生産現場になくてはならない農薬となっています。ジェネリック品が出てくることで、アクシーブ®の収益性は悪化することにはなりますが、より多くの生産者が当社の開発した有効成分ピロキサスルホン(アクシーブ®の有効成分名)を使用できるようになります。食料の生産性向上という世界中が抱える課題の解決に、当社が開発した農薬が大きく貢献しているという事実は、当社が今後も成長を続けていくための非常に大きな原動力になります。当社の生命線は、世の中にない革新的な農薬を生み出し続けることにあると考えております。当社が開発した農薬が世界の農業生産に貢献すること、それが当社の新農薬創製のための研究の継続につながります。
当社は農業に立脚した農薬ビジネスを展開しており、農薬は世界の食料生産を支える不可欠な存在であると考えております。例えば、当社で開発した主力製品であるアクシーブ®は、除草剤に抵抗性を持った雑草を防除できる製品で、世界の作物生産現場になくてはならない農薬となっています。ジェネリック品が出てくることで、アクシーブ®の収益性は悪化することにはなりますが、より多くの生産者が当社の開発した有効成分ピロキサスルホン(アクシーブ®の有効成分名)を使用できるようになります。食料の生産性向上という世界中が抱える課題の解決に、当社が開発した農薬が大きく貢献しているという事実は、当社が今後も成長を続けていくための非常に大きな原動力になります。当社の生命線は、世の中にない革新的な農薬を生み出し続けることにあると考えております。当社が開発した農薬が世界の農業生産に貢献すること、それが当社の新農薬創製のための研究の継続につながります。