Theme.1
新体制のもとで試される
財務基盤の強化とクリエイティビティの発揮

西尾
西尾:2024年11月1日、横山社長の就任を受けてクミアイ化学の新体制が始動しました。その基本方針は、現在進行中の中期経営計画に基づいたものです。横山社長は、高木前社長と共に中期経営計画を策定した中核メンバーの一人。前体制で築かれた強固な経営基盤を踏襲しつつも、変化を恐れない姿勢を明確に示しており、全役員が同じベクトルを向いていると感じています。
一方で、横山社長が就任したのは、経営環境が激しく変化した時期でもありました。そのため、収益力や株価を含む財務体制の強靱化については、より強く意識していると思います。横山社長が強調する「事業を通じた社会貢献」には、「どんなに素晴らしい理念があっても、利益がなければ社会貢献はできない」という趣旨が込められています。横山社長自身、在任期間中にアクシーブ®につづく研究開発のブレイクスルーを起こすと宣言しており、私も大きな期待を寄せています。
池田
池田:横山新社長の就任にあたって、私は指名・報酬委員会のメンバーとして責任の一端を担いました。指名プロセスでは、高木前社長がトップの適格性の要件を具体的に示しており、透明性が高い選考を実現できたと感じます。また、新体制のもとでは新たな人財が適材適所に配置されています。前体制が築いた革新性を持つ土台の上に、新たな課題にも力強くチャレンジする。そうした強みを備えるチームができ上がったと言えるでしょう。
山梨
山梨:高木前社長は後任について、「自分よりもトップスピードで、長く走れるランナーにバトンを渡したい」と考えていました。私が横山社長に抱く印象は、立場を問わず、誰に対してもフラットに接する人格を備えたリーダーです。高木前社長の意思を引き継ぎながらも、新たな感性でチャレンジし、迅速かつ長期的にクミアイ化学をけん引する存在として期待しています。
Theme.2
大幅な減益を乗り越え企業価値をさらに高めるために
西尾
アクシーブ®の販売に支えられた右肩上がりの成長により、前中期経営計画の最終年度には、売上高は過去最高の1,610 億円を記録。しかし2024年度に状況が一転し、売上高は横ばいだったものの、営業利益は大幅な減益となりました。一時的な要因としては在庫調整の影響が考えられますが、より俯瞰するならば、ジェネリック品の浸透を熟慮しなければなりません。特に中国やオーストラリアの訴訟問題は、取締役会の主要な議題の一つとなっています。今後も特許侵害対策については、中長期的に向き合う必要があるでしょう。
一方、化成品事業は前期比で売上高約11%、営業利益約46%の成長を遂げ、大健闘と捉えています。背景には半導体需要の伸長があり、今期以降も継続的な成長を見込んでいます。しかし、化成品事業の売上高は全体の約16%に過ぎず、まだまだ経営の柱とは言えません。さらなるリソースの投下、戦略のブラッシュアップが必要です。
池田
2024年度の業績悪化は、取締役全体で重く受け止めています。子細な原因分析も随時報告されている段階ですが、冷静かつ客観的に対処しようとする姿勢があり、問題意識も共有されていると感じます。特許侵害対策においては、これまで勝訴的和解を獲得した実績にも注目すべきです。一連の法的対処における経験値は、今後も生かされるでしょう。
目下の課題はアクシーブ®の業績の維持・拡大ですが、同時に新剤の研究開発強化も必要です。化成品事業の業績が好調なことは歓迎すべき成果ですので、今後はビスマレイミド類などを中心に、事業拡大にアクセルを踏むべきです。
山梨
アクシーブ®に関しては、一つのビジネスモデルが成長期から安定期に移行し、変化に直面するフェーズとなったとも考えられます。減益の要因を分析しながら、他の環境変化も見据えるべきでしょう。過去1年間、取締役会はさまざまな方策を講じようとしており、他事業を含む戦略の見直しを図っています。次期以降に業績への効果が表れ始めるのではないでしょうか。
池田
池田:業績とともに、株価に関しても2024年度以降、伸び悩んでいることは事実です。シビアな見方をするならば、業績が戻れば株価も上がるかというと、必ずしもそうとは限りません。重要なのは投資家に対する企業価値の可視化です。事業成長を明確に伝えられれば、株価と連動するはずなので、情報発信の仕組みを整えることも課題と考えています。
Theme.3
サステナビリティ経営の実践に向け
ガバナンス体制を強化する
西尾
社外取締役の役割は、企業の健全な経営を実現するための監視・監督です。事業戦略やビジョンにおいて、社内の判断だけでは見落とされる課題やリスクを察知し、客観的・中立的な立場で提言を行うことを、私たちは常に心掛けています。
ステークホルダーが多様化する現代において、地域社会や株主の存在を無視する判断、不適切な意思決定を行った結果、不正行為が発覚し、信頼を失う企業も増えています。クミアイ化学は高度な倫理観を備えており、幸いにも現時点でコンプライアンスの欠落は見られません。ただし今後も経営の透明性を徹底することに変わりはないので、監視・監督に努めたいと考えています。
山梨
外部企業から社外取締役に登用された私の役割は、コンプライアンスやリスク管理の強化だと認識しています。着任時には高木前社長より、他の役員には無い視点で意見を述べることを期待されました。海外企業のように、異なる価値観を持つ人間が、独立的な立場から意見を交わすことに、ガバナンス体制の意義がある。そうした意図があったのでしょう。
クミアイ化学の取締役会は常にフラットな雰囲気であり、職歴が全く異なる私の意見も傾聴される印象です。今後は、特に消費者や女性の視点を取り入れながら、クミアイ化学のリスクや可能性について、率直な提言をしていきたいと思います。
池田
取締役会は自由闊達な雰囲気で、社外取締役としても議論しやすいと感じます。私の役割は、主にサステナビリティや研究開発の領域で、専門家の立場から意見を述べることです。サステナビリティ経営については着実に成果を上げていると評価しますが、一方で農薬や化成品に対する環境面での世間における誤解や偏見は、いまだに根強いものがあります。クミアイ化学の事業が、地球環境や社会、経済に貢献していることを、ステークホルダーに向けてより積極的に発信していくべきです。
山梨
クミアイ化学の場合、特に農薬の安全性を世の中に伝えることは急務です。現在、小学生や高校生を対象とした次世代教育に取り組んでいますが、こうした啓発活動はより強化していくべきですね。
池田
研究開発については、化学研究所(ShIP:Shimizu Innovation Park)を中心に、パフォーマンスを高める環境が続々と整備されています。この土壌に新たな発見・発明の種をまき、育んでいくことが今後の課題となります。そのためには、想像力に富んだフレッシュな人財の育成も欠かせません。すでに国内外の異業種交流、学術研究機関との連携が進んでいますが、これらの施策も加速すべきでしょう。
Theme.4
急変する国際情勢、地球環境の中でさらなる成長のために

山梨
中期経営計画では、「リスクマネジメントの強化」や「コンプライアンスの推進」が企業経営の基盤として設定されています。クミアイ化学では現在、リスク管理やコンプライアンスについて、社員への厳格な周知を推進しています。一人ひとりが自分ごととして捉えられるよう、絵本や漫画で表現するなどの工夫も施されており、コンプライアンスの理解・浸透に向けた取り組みが着実に継続されている点は、評価に値すると考えています。
池田
コンプライアンス領域において、社会からの要求はますます複雑化しています。仕事への向き合い方一つとっても、世代によってさまざまです。一人ひとりの事情を精査しながら、施策を推進する必要があるでしょう。
またリスクマネジメントにおいては、国際情勢の変化が激しくなっています。海外での売上が60%に達するクミアイ化学は、そうしたグローバルリスクの影響を受けやすいのも事実。多様なリスクを想定内にとどめられるよう、常に心構えをしておかなければなりません。中でも最大のリスクは、気候変動の危機です。現在の地球は、前例のない高温や極度の乾燥、今まで問題とならなかった病害虫が農作物を襲う可能性をはらんでいます。食料生産の維持が困難になる状況は危機でありますが、農薬が使命を果たす機会でもあります。ニーズを先取りし、最先端領域で研究を進めることで、クミアイ化学が未来の社会に貢献できる可能性は広がるはずです。
西尾
国際情勢を含む外部環境は、今後も不安定であり続けるでしょう。一方で、世界全体の人口増加は農薬の需要にもつながるなど、グローバルな潮流は追い風にもなり得ます。そうした際にリスク要因になるのは、競合他社の存在です。特に化学品業界は不況に陥っているため、成長が見込まれる農薬分野に参入・注力する傾向が強まっています。他社から画期的な製品が生まれ、クミアイ化学が後れを取ることは避けなければなりません。研究開発のブレイクスルー創出に向けて、対応を急ぐべきでしょう。
山梨
多様な社会変化が複雑に絡み合う現代においては、部門を越えた連携も効果を発揮します。例えば、特許侵害品対策で得た海外事業の法的対応の知見は、別の事業にも生かせるはずです。各部門が持つノウハウはそれぞれ異なるため、リスク対処という観点から全社的に結集することで、相乗効果が生まれることを期待しています。
Theme.5
全てのステークホルダーと対話を重ね
未来へのビジョンを共有する
西尾
企業のステークホルダーは、投資家、社員、顧客、取引先、地域住民、行政機関など、多岐にわたります。そして事業活動が与える影響は、例えば株主ならば利益配分、社員は賃金や職場環境、地域住民は経済や公害というように、それぞれ大きく異なります。ステークホルダーは立場によって、ニーズや関心も違うため、受ける恩恵や損害が時に相反する場合があるものです。だからこそ、企業は対話を通じ、それぞれと良好な関係を築いていかなければなりません。
そこで重要になるのは、ステークホルダーに対して常に透明性の高いメッセージを発信していくことでしょう。クミアイ化学はアクシーブ®やエフィーダ®をはじめとする優れた製品、それらの提供で証明された研究開発力、気候変動をはじめとする社会課題への対応、食料生産への使命感など、多くの強みを持っているはずです。これらを通じて、「安全・安心で豊かな社会の実現に貢献する」「持続可能な農業をつくりあげていく」というメッセージを発信することが、いっそう大切になると考えます。
池田
特にクミアイ化学が独自性を発揮できるのは、開発力や技術力です。ただし、その成果が国内外の食料生産にどれだけ貢献しているか、化成品事業が消費生活の向上にどれだけ寄与しているかは、数値的に示されていません。株主からエンドコンシューマーに至る、全てのステークホルダーに向け、明確な形でクミアイ化学が行っている社会貢献の現状を伝えることに、もっと注力すべきですね。
特に、国内外の農業生産の現場で、クミアイ化学のさまざまな製品が使われているにもかかわらず、実際にはどのようなシーンで活用され、なぜ生産の安定化や効率化を実現しているのかは、十分に理解されていません。インターネットメディアの活用、視覚的にわかりやすい解説、広報物の細かな説明に至るまで、コミュニケーションプロセスを見直す価値はあると思います。どれだけ事業が優れていても、情報が発信されなければステークホルダーの賛同は得られないので、積極的な広報活動を推進すべきです。
山梨
個人投資家の増加に代表されるように、ステークホルダーとひとくくりに言っても、求められるニーズはさまざまです。今後はますます多角的な視点で、企業価値が判断されるはずです。ただしその中でも、“安全・安心”という普遍的な希求は、揺らぐことはありません。事業や製品の安全性を担保し、信頼を積み上げることは、常に備えておくべきマインドだと思います。

Theme.6
リスクをビジネスチャンスに変え
新たな価値を創造していく
西尾
不安定、不確実な外部環境の中で、企業経営はますます複雑化していきます。そうした中でも横山社長には、中期経営計画を完遂し、研究開発力や人財力を磨き上げる責任があります。クミアイ化学の企業価値が高まるために、私は社外取締役として提言、意見を徹底し、横山社長の新体制をバックアップしていきます。
池田
気候変動をはじめ、食料生産を取り巻く環境異変の深刻化は、人類全体の課題です。しかしそれは、クミアイ化学の出番でもあります。リスクをビジネスチャンスに変え、次なる時代をステークホルダーの皆様とともに歩むという姿勢を、より明確な形で示していきたいです。
山梨
クミアイ化学の次なる成長に向け、役員と社員が一丸となり始めたのは間違いありません。この流れを加速させれば、新たなニーズに応える企業へと飛躍できるでしょう。そのためにはステークホルダーの皆様の共感も欠かせません。多様な人財が活躍し、サステナブルな経営を実現するクミアイ化学になるように、社外取締役としてコーポレートガバナンスの高度化を目指していきます。