Vol. 2
低炭素社会に資するエコ素材、EPS
近年、脱プラスチックへの意識が高まっていますが、石油由来の化学製品は環境負荷が高いイメージが先行している傾向があります。イハラ建成工業が製造販売するEPS(Expanded Polystyrene : ビーズ法発泡スチロール)は、低炭素社会へ貢献する優れたエコ素材でありながら、微量の石油由来原料を使用していることでマイナスの印象を持たれている側面があります。EPSの特性とイハラ建成工業の化成品事業を通じたSDGsへの取り組みについて話を聞きました。
EPSは省資源でリサイクル率90%以上を誇るエコ素材
EPS の原料は、発泡剤(ブタンやペンタンなど)が入った直径 1mm 程度のビーズ状のポリスチレンです。このビーズを蒸気(スチーム)で加熱し、約50倍に膨らませて成型したものがEPS製品で、ビーズ法ポリスチレンフォームとも呼ばれています。製品体積の約98%を空気が占めており、石油由来の原料はわずか2%しか使われていません。省資源性の高い製品であり、使用後の焼却やリサイクルの観点でも卓越したエコ素材であると大井川工場長を務める「EPSの主成分は、炭素と水素です。 完全燃焼すれば『炭酸ガス(CO2)』と『水(H2O)』 になり、ダイオキシンなどの有害ガスは発生しません。製造工程においても副生物がほとんど発生しないため廃棄物や有害物質が周辺環境に影響することもありません。もしも工場の生産ラインで不良品が出ても、自社で溶かしてリサイクルしていますから、原料のポリスチレンもほとんど廃棄せずに使っています。製造に必要な蒸気を供給するボイラーの燃料を重油から都市ガスへ変更し、 製造工程におけるCO2削減も推進しています」。
EPSは、「軽量性」「耐水性」「緩衝性」「断熱性」「加工性」などの特性を活かして、魚箱、梱包材、断熱材、緩衝材、ブロック用途など幅広い分野で利用されています。
「イハラ建成工業をはじめ、これらの製品のバリューチェーンを構成する原料メーカー、製品メーカー、家電メーカー、流通業者、建設業者などは、使用済みの発泡スチロール製品による環境負荷を低減すべく、使用済み製品のリサイクルに力を入れてきました」と述べるのは、静岡事業所長の川嶋康利です。
「JEPSA(発泡スチロール協会)のデータによれば、日本国内で出荷された生鮮食品用の容器、家電製品用の梱包材、建築用の断熱材などで使用された発泡スチロール製品の回収率は約90%に達し、回収されたEPS製品はペレット化して再生プラスチック製品の材料、ガスや油に変換して燃料として再利用されます。このリサイクル性の高さが多分野に活用される大きな要因だと思います」。
EPS製品のマテリアルリサイクル工程
再生EPS製品や、建材・土木資材、家電製品の梱包材として再利用
再生EPS製品や、建材・土木資材、家電製品の梱包材として再利用
「断熱性」と「軽量性」でCO2削減と省資源に貢献
注目すべきはリサイクル性だけではありません。EPS製品は優れた「断熱性」によるCO2削減にも貢献します。最も身近な例が、魚や農産物などの生鮮食品の鮮度を保ったまま移送する発泡スチロール容器です。産地から消費者まで届けられる安全で安価な容器として流通に欠かせないものになっています。
「俗にトロ箱と呼ばれる魚を輸送する容器のほとんどが、保冷効果の高いEPS製品です。箱自体が軽量なため輸送に必要なエネルギーを抑えCO2の削減につながります。沼津港で水揚げされた魚を青森まで輸送する事案に携わりましたが、容器内の氷が解けずに残るほどです」。
EPSは使用部位に応じた曲面や凹凸など成型の自由度が高く、長期間にわたって断熱性能の劣化が少ないという他素材にはない強みを持っています。この特性を活かしたEPSの用途が冷暖房効率を上げる住宅の断熱材で、海外では40年以上の実績があります。国内の断熱材におけるシェアはまだ1割強ですが、札幌市の戸建て住宅にEPSの断熱材を使用すると年間1,571㎏のCO2削減が見込まれるという試算もあり、今後の成長が期待されています。そして、EPSの特性として見逃せないのが「軽量性」と「緩衝性」であると泉は言います。
「エアコンなどの家電製品を輸送する際の緩衝材や、軟弱地盤の盛土などに用いられる土木資材など、EPSの特性を活かした用途は多岐にわたります。これから伸びていくと見込んでいるのが、自動車のトランクの床板など軽量化を目的とした他素材からEPSへの切り替えです。車両の軽量化は燃料を節約しCO2削減に効果があるため、エネルギー・資源の使用量削減を図りたいメーカーの需要が高まると考えています」。
問題視されているプラスチックごみとは異なり、リサイクル率が高く、 省資源性に優れ、CO2削減に資するEPSは、今後あらゆる産業の現場で注視される素材と言えます。まさに持続可能な低炭素社会の実現に欠かせないマテリアルなのです。
地域社会の一員として静岡市のSDGs推進活動に参加
イハラ建成工業は、EPSの製造・販売と並んで建設事業を展開しており、事業全体を通じたSDGsへの取り組みを強化しています。静岡市が進めているSDGs推進活動に参加し、SDGsが掲げる17ゴールのうち2021年に取り組む5つの目標を選出した「SDGs宣言書」を静岡市のホームページで公開しました。
「具体的な取り組みとして、EPS製造工場における都市ガスの使用原単位を前期比で2%削減、建設現場で発生するコンクリート、アスファルト塊などの再生資源化率99%以上、設計・工事において再生材料を積極的に利用することなどを目標に掲げています」と話すのはコーポレートガバナンス統括室長の渡辺俊久です。
「宣言書では、資源と環境の未来を見つめ、持続可能な地域社会の発展に貢献するという、事業者としてのあるべき姿を定めました。地元の小中学校に向けた工場見学会や、高校生・大学生のインターンシップ受け入れなどを通じて地域社会との交流を図っています。社内へのSDGsに対する認知浸透を進めながら取り組む項目を増やしていく予定です。今後はより積極的に地域や消費者とのコミュニケーションを深めて、EPS製品のCO2削減効果などをPRしていきたいですね」。
地域社会の一員として地元の活性化に寄与しているイハラ建成工業。現在、難燃性や製品重量の精度向上など、新しい付加価値をもつEPS製品の開発が進められ、用途拡大とともに「持続的発展が可能な社会」へのさらなる貢献が期待されています。