メパニピリムの発見経緯

メパニピリム
メパニピリム

1984年当時、ピリミジニルカルボキシ系(PC系)と呼ばれる新しいタイプのALS阻害作用を有する除草剤について、プロジェクトを組んで集中的に探索研究が行われていた。

その際中に、PC系化合物のカルボン酸の代わりに、フェニルイミノ体を合成する目的でN-フェニルサリチルアルジミンのナトリウム塩とスルホニルピリミジンを反応させたところ目的物は得られず、O-ピリミジニルサリチルアルデヒドと、アニリノピリミジンが予期しない副反応生成物として得られた。この化合物に灰色かび病に対する活性が見出されたのである。この化合物系統を殺菌剤研究室で検討することになり、構造最適化が始まった。リード化合物に種々の構造変換を加え、最適化を行った結果、ピリミジン4,6-位にコンパクトな置換基を種々組み合わせた化合物はいずれも高活性ではあったが、いくつかの作物に対して許容外の薬害がみられた。しかし、メチル基とプロピニル基を組み合わせた化合物は活性が最も高く、さらに幸運なことに作物に対する安全性が増すことがわかった。これがメパニピリムであり、殺菌剤として研究を始めてからわずか3ヶ月で最高活性にたどり着いている。

メパニピリム

その後約1年半にわたり周辺化合物を合成したが、メパニピリムに勝る化合物は見出されなかった。こうして選ばれたメパニピリムはフルピカと名づけられ現在販売中である。メパニピリムを見出すことができた理由の1つに、新しいアニリノピリミジン誘導体合成法の開発がある。アニリノピリミジン誘導体の合成法にはアニリンと2-位に脱離基を有するピリミジンとの反応と、フェニルグアニジンとジケトンの環化反応との2つの反応があった。

しかし、いずれの方法も合成可能な置換基に制約があり、探索研究段階での置換基変換に対応するには不十分であった。そこで、ホルムアニリドと水素化ナトリウムをTHF中室温で反応させることにより得られたナトリウム塩と2-メチルスルホニルピリミジンを反応させることにより、N-ホルミルアニリノピリミジンを合成し、次いでアルカリ加水分解して2-アニリノピリミジンを得た。こうして開発した新しい合成法により、広範な置換基変換に対応することができた。

1-プロピニル基は現在でもそうだが、当時も決して一般的な置換基ではなかった。そのアルキルアセチレニル基を合成したのには、次のような経緯がある。

当時、合成担当者の1人は入社2年目で、有機化学の知識は全く乏しいものであった。そんな新入社員を先輩方は“勉強会”なるものに誘ってくれた。それは就業時間が終わってから、有志が集まって有機化学の教科書を勉強するというものである。

ある時、パラジウム触媒を使ったヨウ化アリールと末端アセチレンのカップリング反応が、ヘテロ環化合物の合成の中に出てきた。“パラジウム触媒”、“触媒的カップリング反応”、“酸化的付加”、“還元的脱離”という言葉にひかれて、ただただ新しい反応をやってみたいという一心で合成されたのがメパニピリムであった。これこそBeginner's luckそのものであった。

振り返って、殺菌剤の教科書を見るとアニリノピリミジン系という項目があり、いつも3剤が収録されている。それを見るにつけ、先駆者としてのある種の感慨に耽けるのである。