社会課題解決に貢献する 除草剤アクシーブ®
アクシーブ®は当社が開発した環境負荷の少ないイノベーティブな畑作用除草剤で、当社グループの成長をけん引する主力製品です。世界25ヵ国(2025年4月現在)で農薬登録しており、ダイズ、トウモロコシ、コムギ、サトウキビなどの栽培において、防除が難しく、昨今、深刻な問題となっている除草剤抵抗性雑草に対し、低薬量で長期間効果を発揮する切り札と認知され、数多くの製品の有効成分として使用されており、農業現場を支え、世界の食料生産に貢献しています。

食料問題、地球環境問題の深刻化および抵抗性雑草の蔓延
2050 年には97 億人に達すると予測される世界人口を支えるため、世界では食料の増産が喫緊の課題となっています。しかし、農地の拡大には森林伐採などの環境破壊が避けられません。農地の拡大に頼らず食料を増産するには、生物や環境への影響評価をクリアした安全・安心な農薬を適切に使用することで、生産性を向上させることが非常に重要となります。
また、近年、農薬が自然環境に与える影響への関心が高まっており、EUの「Farm to Fork 戦略」(2020年5月、欧州委員会公表)や日本の「みどりの食料システム戦略」(2021 年5 月、農林水産省公表)が策定されるなど、環境負荷低減が求められています。
農業分野では1990 年代に、除草剤「グリホサート」で枯れない性質の遺伝子組換え作物(GMO※1)が登場し、作物の栽培方法に大きな変革がもたらされました。ほぼ全ての植物を枯らす特徴を持つグリホサートとそのグリホサートで枯れないGMO 作物をセットにした栽培方法は、その簡便さからまたたく間に広がり、現在では北米・南米でのダイズ・トウモロコシ栽培の90%以上を占めています。しかし、その栽培方法を続けるうちにある問題が発生しました。グリホサートが効かない雑草種(除草剤抵抗性雑草※2)の出現です。グリホサートに対する抵抗性雑草は2000 年頃に初めて報告された後、2005 年頃から問題視され始めると、アクシーブ® の販売が開始された2011 年当時には既に世界的に大きな問題となりはじめていました。現在、世界の食料を安定的に確保するためには、除草剤抵抗性雑草への対策が必須な状況となっています。
当社が開発したアクシーブ® は、これらの課題を解決するツールとして広く市場に受け入れられ、販売開始から10 年以上が経った今でも登録国を増やし販売を伸ばし続けています。
- 1 GMO(遺伝子組換え作物):遺伝子組換え技術を利用して品種改良された作物。除草剤で枯れない、病気や害虫に強いなどの性質を持つ。
- 2 除草剤抵抗性雑草:同じ種類の除草剤を長期間使用することで、除草剤が効かなくなった雑草のこと。
除草剤抵抗性雑草の累計報告件数

除草剤抵抗性雑草は地図の薄い赤色~濃い赤色で示した国や地域に拡大しており、米国での報告件数は132件と深刻化しています。
出典:INTERNATIONAL HERBICIDE-RESISTANT WEED DATABASE (2025年5月現在)
13年に及ぶアクシーブ®の探索研究
アクシーブ® の探索研究は、市販の畑作用土壌処理剤※3の1/10の投下薬量で同等以上の効果を示す除草剤を目標として開始されました。
アクシーブ® のリード化合物(初期に注目した化合物)は1998年に合成され、開発の可能性が見出されましたが、当時は除草剤「グリホサート」に対し耐性を付与したGMO 作物が登場し、農業が大きな変革を迎えた時期でした。グリホサートとGMO 作物をセットにした栽培方法が主流になったことで、新たな除草剤の研究開発を縮小または中止した企業もありました。しかし当社は、それまでの研究開発で培った知見から、新たな除草剤が必要とされる時代が来ることを見据え、除草剤の研究開発を継続しました。
リード化合物をもとに、高い除草効果と作物に対する安全性を兼ね備えた新規薬剤を見出すべく、化合物の合成と評価試験を何度も繰り返し、2002 年にアクシーブ®(有効成分名:ピロキサスルホン)の選抜に至りました。その後、米国で毎年100 試験以上の現地試験を実施し、それと並行して日本国内ではグローバルで通用する製剤確立や工業化の研究が進められました。また、アクシーブ® は土壌に散布して薬剤を吸収させる土壌処理剤であることから、土壌の種類や降水量の影響など多くの要因についての検討が必要でした。国内での試験や対象となる海外市場での現地試験など、膨大な数の試験を実施し、処理条件・薬量を決定しました。さらに、農薬登録に必要な安全性試験や環境への影響を調べる試験を行い、多くの時間と労力をかけて農薬登録の申請準備をしました。リード化合物の合成から13年後となる2011年、まず初めにオーストラリアで農薬登録を取得し、ようやくアクシーブ® の製品「SAKURA®」が販売開始となりました。
- 3 土壌処理剤:土壌に散布する除草剤。除草剤は土壌処理剤と茎や葉に散布する茎葉処理剤に大きく2分される。

一貫した研究開発体制
当社は、研究開発本部に所属する化学研究所(創薬研究センター、製剤技術研究センター、プロセス化学研究センター)と生物科学研究所(農薬研究センター、生命・環境研究センター)を研究拠点としています。それぞれ役割の異なる研究センターが連携し、新規化合物の合成から工業化検討まで、一貫した農薬の研究開発体制を取っています。
さらに、当社グループでは米国ミシシッピ州に試験場を保有しており、海外向け農薬の開発時に非常に重要となる現地試験をいつでも実施することができる体制が整っています。
これらの体制があったからこそ、アクシーブ® はその探索開始から約4 年という短期間で見出され、スムーズに工業化へ移行することができました。

ダイズ畑でのアクシーブ® 使用効果の比較


農作物の生産性向上と環境負荷低減を両立させるアクシーブ®
「アクシーブ®」は、クミアイ化学が開発した農薬の有効成分「ピロキサスルホン」のブランドネームです。2011年に販売を開始して以来、既存の除草剤に抵抗性を示す雑草を防除するための特効薬として着実に成長を続けており、当社グループの業績を牽引する主力製品となっています。
生産性向上
対象作物
ダイズ、トウモロコシ、コムギ、サトウキビといった世界の主要作物栽培に使用可能

使用用途
畑作用土壌処理除草剤 雑草発芽前の土壌に散布
アクシーブ® を散布すると土壌の表面にアクシーブ® の層ができます。ダイズや雑草の芽がアクシーブ® を吸収すると、雑草だけが枯れ、ダイズは成長を続けます。

強み1
世界的に問題となっている除草剤(グリホサート)抵抗性雑草への高い効果
現在、北米・南米を中心としたダイズ・トウモロコシ栽培では、その90%以上がほぼ全ての植物を枯らす除草剤グリホサートと、グリホサートをかけても枯れないように遺伝子を組み換えた作物(GMO)がセットで用いられています。この栽培方法は1990年代から始まりましたが、2010年頃からグリホサートが効かない雑草が大きな問題となりました。アクシーブ®はグリホサート抵抗性雑草に高い効果があるため、抵抗性雑草の問題を抱えている地域から高い需要があります。

強み2
少ない投下薬量
アクシーブ® は従来の土壌処理除草剤の約10分の1程度と非常に少ない量で効果を発揮します。薬剤散布時の労力の軽減だけでなく、環境負荷低減、輸送に係るCO2排出量の削減にも寄与しています。

強み3
長期間にわたる優れた土壌処理除草効果
アクシーブ® の効果は従来の土壌処理除草剤に比べ約2週間長く効果が継続します。雑草が作物に与える悪影響を低減し、作物の収量や収穫効率の向上が期待できます。散布する農薬の量を減らすことができるため、環境負荷の低減にも繋がります。
- トウモロコシ畑でのアクシーブ®の使用効果の比較

強み4
抵抗性が発達しにくい作用性
アクシーブ® は抵抗性が発達しにくい作用性を持っているため、今後も除草剤抵抗性雑草対策剤として、作物の生産性向上に貢献することが期待できます。
販売の戦略
アクシーブ® は、2011 年にオーストラリアでコムギ用土壌処理除草剤として販売開始となって以来、当社グループの成長をけん引する主力製品です。
ダイズ、トウモロコシ、コムギ、サトウキビなどの主要作物の栽培に使用が可能であるため、その主要市場である米国、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル、インドなどの地域を中心に販売しています。
アクシーブ® は、問題化していた除草剤抵抗性雑草、特にコムギ栽培におけるライグラスやダイズ栽培におけるアマランサス(アオゲイトウ類)に対し長期間にわたり優れた除草効果を示します。その特長を活かし、除草剤抵抗性雑草が問題化している前述の主要市場での技術普及、販売促進活動、新規混合剤の市場投入などを積極的に実施してきました。その結果、除草剤抵抗性雑草対策に不可欠な薬剤としてアクシーブ® の認知度は上がり、その地位を確立することができました。
その後は、上市した国での販売促進活動を行うとともに、他の作物への適用拡大や登録国の拡大を進め市場の拡大に努めています。現在では世界25ヵ国(2025年4月現在)で登録を取得し、現地提携先を通して販売しています。
また、日本や韓国では、非農耕地のゴルフ場の芝用除草剤としても開発し、販売拡大を図っています。

今後の展望
世界の農薬市場は南米・アジアを中心として世界人口の増加や食生活の変化による穀物需要の増加を背景に成長基調が続いており、2028年には813億ドルになると予測されています(AgbioInvestor社)。
一方で、農薬市場はここ数年激しく変動しています。2022年は緊迫する世界情勢を受け、農薬価格が高騰し、農業現場では農業資材のパニック買いが起こりました。2023年は農薬製品が潤沢に供給され、農薬価格が下落、膨らんだ流通在庫の適正化に動きました。在庫適正化から圧縮の動きは2024年も継続し、当社製品の販売にも影響が出ました。穀物価格の下落傾向、農薬価格の低下が継続することが見込まれ、2025年の当社製品の販売にも影響が見込まれます。

アクシーブ®は2011年に販売を開始して以来、既存の除草剤に抵抗性を示す雑草を防除するための特効薬として当社グループの成長をけん引してきました。一方で、アクシーブ®の物質特許は2022年に満了し、成長期から成熟期に移行しつつあります。これに対し、アクシーブ®の維持拡大を図るべく、販売促進支援、適切な価格戦略、混合剤の開発促進などの施策強化に加え、国内外のサプライチェーンを最適化することで生産コストを削減し競争力を強化します。また、当社が保有する混合剤や製造法などの複数の特許を活用した知的財産戦略を実施します。当社知的財産権の侵害が認められた場合には断固たる対応を取ってまいります。2024年度からは、複数社に対し法的措置を実施しており、2025年4月時点で11件の特許権行使手続に対し2件の勝訴的和解を獲得し、その他は係争中となっています。これらの対応は、違法な市場参入の牽制に有効で、アクシーブ®ビジネスの将来を大きく左右すると考えています。
アクシーブ®の創製・開発担当者の声
アクシーブ®の創製担当者 中谷 昌央(現:研究開発本部研開企画部次長)
遺伝子組換え作物が普及する中でも市場環境の変化が小さかった土壌処理除草剤に注目し探索研究を開始しました。研究初期には、実施した試験で作物を含めた全ての植物を枯らす事態となり落胆したこともありましたが、このような試験を含め、研究の過程で得られた多くのデータや過去の知見に基づき仮説を立て、検証を続けた結果、アクシーブ®の発見に至りました。米国での試験時期に合わせサンブル合成、生物評価、初期安全性評価などをタイトなスケジュールで進められたことが、短期間での最適化研究の成功を導いたと考えています。

アクシーブ®の開発担当者 山地 充洋(現:取締役常務執行役員経営管理本部長)
当時は遺伝子組換え作物が上市され、グリホサート以外に除草剤はいらなくなるといわれていました。しかし、当社ではグリホサートの効果持続期間が短い点に着目し、環境負荷が小さく、長期間効果を示し、抵抗性が発達しにくい土壌処理剤の開発を目指しました。アクシーブ®の開発には多くの人の技術と知恵と努力が詰まっており、オールクミカで成し遂げた大きな成果でした。その成果は次の世代へと受け継がれ、新たな挑戦へと進化を続けています。
